
サイバーポリゴン&サイバーストームVI:サイバー回復力のシミュレーション
サイバーセキュリティ演習を理解する:Cyber Polygon から Cyber Storm まで
サイバーセキュリティの現場では、事前の備えが予防と同じくらい重要です。脅威が日々巧妙化する中で、官民を問わず多くの組織がシミュレーション演習を実施し、防御態勢をストレステストし、対応戦略を洗練し、現実のインシデントによるコストと危険を負わずに教訓を得ています。本記事では、世界経済フォーラム(WEF)とパートナーが主催した「サイバーパンデミック」演習 Cyber Polygon と、米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)が主導した国家規模演習 Cyber Storm VI の 2 つを取り上げます。目的・方法論・実世界への示唆に加え、技術者向けにイベント監視・解析に役立つサンプルコードも紹介します。初心者から熟練の実務者まで、サイバーセキュリティ演習の世界を俯瞰できる内容です。
目次
- サイバーセキュリティ演習とは
- Cyber Polygon:「サイバーパンデミック」を想定した演習
- Cyber Storm VI:米国の国家サイバー演習
- 現代サイバーセキュリティにおける演習の役割
- 実践例とコードサンプル
- 課題と今後の展望
- まとめ
- 参考文献
サイバーセキュリティ演習とは
近年、サイバー脅威は件数だけでなく高度化の一途をたどり、重要インフラやサプライチェーン、政府、民間企業を標的にしています。こうしたリスクに対抗する手段として、組織はシミュレーション演習――テーブルトップ、レッドチーム vs ブルーチーム、そして「サイバーパンデミック」級の全社的シナリオ――を採用し、以下を検証します。
- サプライチェーンと重要インフラの堅牢性
- 対応計画の有効性
- 官民の連携度合い
- デジタル資産保護に必要な政策・規制
本記事では、国際的にも注目を集めた 2 つの演習を深掘りします。
- Cyber Polygon ― サイバーパンデミック演習:WEF が主催し、企業のサプライチェーンを狙った大規模攻撃を模擬。
- Cyber Storm VI:CISA が主導した米国の国家演習で、重要インフラ全体に影響を与えるサイバー攻撃を想定。
両演習は「備えあれば憂いなし」を体現し、実践的トレーニングの重要性を示しています。
Cyber Polygon:「サイバーパンデミック」を想定した演習
背景と目的
2021 年 7 月 9 日、WEF は 3 度目となる Cyber Polygon を開催しました。主なポイントは以下の通りです。
- 大規模サイバー攻撃の再現:企業のサプライチェーンを狙った攻撃を模擬。
- リアルタイム対応・協調:インシデント進行中に各チームが連携し、防御と危機管理をテスト。
- サプライチェーンの脆弱性:サプライヤやベンダーが連鎖的に被害を受けるシナリオを重視。
デジタル世界での「感染拡大」をパンデミックになぞらえ、ネットワークを介して攻撃が急速に拡散する状況を描きました。
主な結果と示唆
- 相互接続リスク:ネットワーク分割が不十分だと、一箇所の侵害が全体へ波及。
- 対応の複雑性:多部署・外部パートナーとのリアルタイム協調が不可欠。
- 情報共有の重要性:迅速かつ透明なスレットインテリジェンス共有が成否を分ける。
- 経済的影響:運用停止だけでなく、市場の信頼や経済安定に長期的ダメージ。
- 政策・規制への波及:欧州委員会も結果に関心を持ち、EU 全体の政策に反映を模索。
欧州議会による議会質問
欧州議会議員クリスティーネ・アンダーソン氏は、質問書 (E-004762/2021) で以下を確認しました。
- 認識と評価:欧州委員会は結果を把握しているか、その解釈は。
- 委員会の関与:演習への具体的な参加・情報共有の有無。
- デジタルエコシステムへの影響:加盟国・企業・市民、そしてデジタル通貨利用へのインパクト。
演習結果が政策立案と直結し得る点を裏付けています。
Cyber Storm VI:米国の国家サイバー演習
演習概要
2018 年 4 月、CISA は 5 日間の演習 Cyber Storm VI を実施しました。
- 国家規模:1,000 名以上が参加し、連邦・州・地方・部族・準州政府と民間が連携。
- 重要インフラ重視:製造、交通、通信、法執行、金融など多分野を対象。
- 危機管理と協調:米国のサイバー対応力と情報共有チャネルを検証。
目的と成果
- 国家サイバーインシデント対応計画 (NCIRP) の検証
- 情報共有プロトコルの評価
- 官民パートナーシップの強化
- 重要インフラ各セクターの統合
協調と官民連携
- 連邦機関:CISA と DHS が主導。
- 州・地方政府:地域インフラ防衛を担う。
- 民間企業:技術・知見を提供。
- 国際パートナー:国境を越えた協力が不可欠。
多様な主体が連携する「コミュニティ全体」の対応モデルを追求しました。
現代サイバーセキュリティにおける演習の役割
シミュレーションから学ぶ
- 弱点の洗い出し
- 新技術・手順のテスト
- チームの自信向上と反射神経の鍛錬
インシデント対応力の強化
- 協調体制の改善
- コミュニケーションプロトコル整備
- 適応力の向上
シミュレーション結果は政策改定にも活用されます。
実践例とコードサンプル
Bash によるネットワークスキャン
#!/bin/bash
# ターゲット IP/ホスト名
TARGET="192.168.1.1"
echo "Nmap スキャン開始: ${TARGET}"
# -A はアグレッシブスキャン(ポート・サービス・OS 推定など)
nmap -A ${TARGET} -oN nmap_scan_results.txt
if [ $? -eq 0 ]; then
echo "スキャン完了。結果: nmap_scan_results.txt"
else
echo "Nmap スキャン中にエラーが発生しました。"
fi
Python でログを解析
import xml.etree.ElementTree as ET
def parse_nmap_xml(file_path):
tree = ET.parse(file_path)
root = tree.getroot()
for host in root.findall('host'):
address = host.find('address').attrib.get('addr')
ports = host.find('ports')
if ports:
print(f"Host: {address}")
for port in ports.findall('port'):
port_id = port.attrib.get('portid')
protocol = port.attrib.get('protocol')
state = port.find('state').attrib.get('state')
service_elem = port.find('service')
service = service_elem.attrib.get('name') if service_elem is not None else "unknown"
print(f"\tPort: {port_id}/{protocol} is {state} - Service: {service}")
if __name__ == "__main__":
xml_file = "nmap_scan_results.xml"
parse_nmap_xml(xml_file)
課題と今後の展望
演習の課題
- リアリズムと統制のバランス
- スケーラビリティと複雑性
- 相互運用性
- リソース制約
未来の演習トレンド
- AI/ML の統合
- クラウド環境を模した演習
- 国際共同演習の拡大
- サプライチェーンセキュリティの深化
- XR(拡張・仮想現実)を活用した没入型トレーニング
まとめ
Cyber Polygon と Cyber Storm VI は、サプライチェーンや対応プロセスのストレステストから官民連携の強化、政策形成まで、多層的にサイバー防衛を支えています。欧州議会の質問に示されるように、演習の知見は規制強化にも直結。技術面では Bash によるスキャンや Python 解析など、日々の実務で役立つスキルも欠かせません。
適切に設計された演習で学びを重ねることで、次のサイバー危機に際して迅速かつ協調的に対応し、デジタル社会の安定を守ることができます。
参考文献
- 欧州議会 – 議会質問 E-004762/2021 (PDF)
- 世界経済フォーラム – Cyber Polygon
- CISA – Cyber Storm VI 公式ページ
- CISA – サイバーセキュリティ リソース & ツール
急速に変化するデジタル環境では、準備は選択肢ではなく必須事項です。国際協力でも国家演習でも、シミュレーションは現代サイバーセキュリティの要(かなめ)。Cyber Polygon や Cyber Storm VI の教訓を生かし、世界各国の組織がより強固なエコシステムを築けるよう努めましょう。
備えあれば憂いなし――常に準備を、そして安全を。
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